あっという間に3月も中盤。
年度末ということもあって、気忙しいですね。
今回は、年度末の総決算もかねまして、
今年度に行いました「院長」への覆面調査の結果を
皆様にシェアしたいと思います。
(非常に考えさせられる事柄ばかりでした)
今回、私どもに相談されたのは、ある眼科クリニックの事務長からでした。
看護師を雇用してもすぐに退職してしまうそうで、
ほとほと困り果てている様子でした。
最近、うつ病を発症して休職した看護師に話を聞いたところ、
「院長が怖くてたまらない。
あの先生と一緒に仕事をしなければならないと思うだけで、足がすくんでしまう」
と言っていたとのこと。
ちょっとしたことで怒鳴りつけるため、びくびくしながら仕事をするようになり、
毎日がつらくなった。
それでうつ病の症状が表れるようになったと看護師は訴えたそうです。
こちらのクリニックの医師は、開設者である先代院長、2代目の現院長ともに
職人気質で、技術は背中を見て学べというタイプ。
スタッフの動きが遅いと怒鳴る、ミスがあれば厳しく叱責する。
認めたり褒めたりすることは全くないという組織風土です。
(←これって、どうなのでしょうか・・・。)
事務長はそのことをよく理解していたので、
スキルが高くて打たれ強いタイプの看護師を
できるだけ院長の診察室に配置していました。
一方、事務長から見て院長は、若くて明るく、快活な雰囲気でした。
そこで、新規採用した看護師は院長の診察室に配置していたのですが、
それが裏目に出た形で、事務長は非常に驚いていました。
事務長がスタッフにヒアリングをしたところ、
これまでも、院長の言動が原因で何人かの看護師が
退職していたことが分かりました。
院長の言動は、パワーハラスメントに該当する可能性があります。
『パワハラは、同じ職場などで働く者に対して、
職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、
業務の適正な範囲を超えて、
精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為』
と定義されています。
今回の場合、事務長は立場上、院長に直接この件を話すことは困難であり、
難しい状況でした。
そこで、私どもの覆面調査を通じ、
院長の職員への接し方や患者に与える印象について
第三者の視点から指摘を受けることにより、
スタッフの離職防止と患者満足度の向上につなげたいとのご要望でした。
早速、弊社の覆面調査サービスを行いました。
覆面調査員のA子がクリニックを訪れました。
受付では「おはようございます」と挨拶がありましたが、
受付職員にはアイコンタクトや表情がなく、
ただ言っているだけという印象です。
落ち着きがなく、常に追われているという感じもしました。
パソコンの画面と診察券、問診票は見るものの、
一度もアイコンタクトがない上、
片手で物を扱うことが多く、丁寧さが感じられません。
A子が診察室に入ると、院長もパソコンの画面を見ながら
「おはようございます」と挨拶をしました。
そして問診の間、A子の目を見ることはありませんでした。
言葉遣いは適切でしたが、表情や声の抑揚がほとんどないため冷たい印象でした
A子が話した内容についても、「はい」と返事はしてくれるのですが、
常にパソコンに向かって入力をし続けており、非常に話しづらい雰囲気です。
急いでパチパチとキーボードを打つ無機質な音だけが響いていました。
診察中、院長が看護師にある指示をしたときのことです。
看護師は、指示された物品の場所が分からず少し探していると、
「何、ノロノロしているんだ。早くしろ!」
と大きな声で副院長が怒鳴りました。
その怒声は、調査員のA子が聞いても恐怖感を抱くほど威圧的なものでした。
「仕事ができない人が悪い」と言う院長。
調査の結果はまず事務長に伝え、日を改めて院長にフィードバックを行いました。
その席で、職員への怒声のことを話したところ、
院長は初め、「看護師に注意をしてはいけないのか?
仕事ができない人が悪いのに、忙しいときにそんなに気を遣うことはできない」
と納得がいかないようでした。
しかしながら、クリニックに看護師が定着しないので
職場全体としてスキルが向上しないこと、
さらに現在は看護師の採用コストが以前よりもかかるようになっていて、
相次ぐ退職者の補充に伴う採用経費が経営を圧迫していることなど、
客観的な事実を伝えて納得していただきました。
また、現在休職中のスタッフからのヒアリング内容も、院長に報告しました。
さすがに院長は、うつ病の原因が自分にあるとスタッフが訴えていることを知り、
ショックを受けたようです。
「自分の振る舞いをどのように改善すべきか、具体的な方法を知りたい」
とおっしゃいました。
そこで当社は管理者研修を行い、
パワハラの実態や実際の他の病院事例について紹介するとともに、
管理職として部下を育成する技術についてお伝えしました。
スタッフの「心のオアシス」を作っておく
研修でお伝えしたポイントは、
部下を注意する際、感情的に怒るのではなく、
論理的に整理してどこが良くないのか伝えるのが重要であるということです。
さらに患者の前でスタッフを怒鳴ることは避けるべきであり、
必要な注意であっても患者の前では最小限にとどめ、
患者のいないところで適切に注意することが大切であるとお伝えしました。
さらに、注意や叱咤をスタッフが前向きに受け入れるためには、
日ごろからスタッフの心を元気にさせるような
コミュニケーションを取っておかなくてはなりません。
スタッフの心の花に水をやるように、
元気になる言葉、つまり認める言葉や褒める言葉をできるだけ多く伝えておくこと
がポイントです。
心の水やりを日ごろから実践しておけば、
厳しい指摘であっても素直に受け入れるだけの
「心のオアシス」を作ることができるのです。
院長の場合、スタッフへの心の水やりをしないまま、
成果ばかり要求し厳しく叱責するため、
スタッフの心のダムができておらず、
叱責を受け入れる心の余裕がなくなってしまったのです。
そのため、心のダムが干上がり、
精神的なバランスを崩してしまったものだと考えます。
例え、同じ言葉であっても、
表情や話すスピード、声のトーン、抑揚、アイコンタクトといった
非言語コミュニケーションの取り方により相手が受け取る印象は変わってきます。
職員を叱る際には、そうした部分にも注意が必要です。
看護師への対応が劇的に改善した院長
院長はもともとコミュニケーション力が高かったため、
問題の指摘を受け具体策を知ることにより、
看護師への対応が劇的に変化しました。
結果として、看護師も定着するようになったとのことです。
院長も、先代の時代と現在のスタッフマネジメントの違いを深く理解し、
看護師やスタッフに対して、日ごろから目を配り
言葉掛けをするようになりました。
結果として、クリニック全体の雰囲気は、明るく穏やかになったと
嬉しいお声をいただきました。