「お客様に、もっと喜んでいただきたい」
接客に携わる方であれば、一度はそう思ったことがあるのではないでしょうか。
けれども、一生懸命に対応しているつもりなのに、お客様の反応が薄い。
手厚いサービスをしているのに、なかなかリピーターになっていただけない。
そのようなとき、さらに特別なサービスを加えなければならないと思ってしまう方もいらっしゃいます。
しかし、お客様に選ばれるために必要なのは、大がかりなサプライズや、
限られた人にしかできないカリスマ的な接客ではありません。
大切なのは、
「今この瞬間、目の前のお客様が安心し、笑顔になるために、何ができるだろう」
と考えることです。
そして、その気持ちを、ほんの少しの言葉や行動で表すことです。
現在はホスピタリティ経営コンサルタントとして企業や店舗の接客改善に携わる私が、
お客様から選ばれる人が大切にしている接客の心構えについてお伝えします。
お客様は、短い接点から会社全体を判断している
お客様とスタッフが接する時間は、必ずしも長いとは限りません。
入店したときの挨拶。
売り場で質問したときの返事。
商品の受け渡し。
お会計後のひと言。
一つ一つは、わずか数秒から数十秒の出来事です。
しかし、お客様は、その短い接点から、
「感じのよいお店だな」
「ここなら安心して利用できそう」
「スタッフを大切にしている会社なのだろう」
と、お店や会社全体の印象を感じ取ります。
反対に、質問をしても返事がない、目を合わせてもらえない、面倒そうな表情をされると、
それがたった一人のスタッフの対応であっても、
「このお店は感じがよくない」
「この会社は、お客様を大切にしていない」
という印象につながることもあります。
お客様にとって、目の前のスタッフは、その瞬間の「会社の代表」なのです。
だからこそ、ほんの短い時間の接し方が、お客様から選ばれるかどうかを左右するのです。
接客サービスに、過剰なおもてなしは必要ない
「お客様に喜んでいただく」と聞くと、特別な演出や手厚いサービスを想像する方もいるかもしれません。
けれども、お客様が本当に求めているのは、必ずしも豪華なサービスではありません。
まず求めているのは、
- 困ったときに気づいてもらえること
- 質問したときに気持ちよく応えてもらえること
- 不安なく商品やサービスを利用できること
- 自分を大切に扱ってもらえること
です。
つまり、サービス本来の目的が、きちんと果たされることです。
お客様が商品を探しているのに、スタッフへ声をかけづらい・・・。
説明を聞きたいのに、忙しそうで質問できない・・・。
会計方法がわからないのに、案内がない・・・。
このような状態では、どれほど立派な内装や商品があっても、お客様は不安や不満を感じます。
まず、その不安や不満を取り除く。
その基本ができているからこそ、プラスアルファの気遣いがお客様の心に届くのです。
CSとCXの違いとは
接客やサービスを考える際、よく使われる言葉に「CS」と「CX」があります。
CSとは、カスタマーサティスファクション、つまり「顧客満足」のことです。
たとえば、
- 待ち時間は長くなかったか
- 店内は清潔だったか
- 商品は探しやすかったか
- スタッフは笑顔で対応していたか
- 説明はわかりやすかったか
といった項目について、お客様がどの程度満足したかを測ります。
アンケートなどで数値化し、改善すべき点を把握するためにも活用されます。
一方、CXとはカスタマーエクスペリエンス、つまり「顧客体験」のことです。
CXは、単に予想を超えるサプライズを意味するものではありません。
お客様が商品やサービスを知ったときから、来店、購入、接客、会計、購入後まで、
企業やお店とのさまざまな接点を通して感じる、安心、便利さ、喜び、信頼、愛着などを含めた
一連の体験です。
商品そのものだけではなく、
「このお店に来ると、ほっとする」
「この人に相談すると安心できる」
「ここなら、私のことをわかってもらえる」
という気持ちも、顧客体験の一部です。
CXを高めることは、単に一度満足していただくことではありません。
お客様との関係を育て、
「次もここで買いたい」
「またこの人にお願いしたい」
と思っていただくことにつながります。
私が、いつもA店を選ぶ理由
私の生活圏には、二つのスーパーマーケットがあります。
品ぞろえや価格に、決定的な違いがあるわけではありません。
それでも私は、自然とA店へ足を運んでしまうのです。
その理由は、A店のスタッフの方々の、ささやかな対応にあります。
- 売り場で声をかけると、元気よく返事をしてくださる。
- 商品を探していると、スタッフの方から声をかけてくださる。
- 鮮魚コーナーでは、魚の種類の違いや、おいしい食べ方を教えてくださる。
- 暑い日には、お会計のあとに「暑いので、どうぞお気をつけてお帰りくださいね」と声をかけてくださる。
一つ一つは、決して大がかりなサービスではありません。
長い時間をかけて、特別なことをしてくださったわけでもありません。
けれども、その数秒のやり取りによって、私は、
「気にかけてもらえた」
「大切にしてもらえた」
「またここへ来たい」
と感じるのです。
スーパーマーケットを利用する本来の目的は、「必要な商品を買うこと」です。
A店では、そこに安心や喜び、温かさという価値が加わっています。
私は、商品だけを買いに行っているのではありません。
A店で過ごす、心地よい時間も含めて選んでいるのです。
ほんのひと言が、顧客体験を変える
顧客体験を高めるために、必ずしも大きな設備投資が必要なわけではありません。
たとえば、
「何かお困りではございませんか」
と声をかける。
商品をお渡しするときに、
「こちらは滑りやすくなっておりますので、お気をつけください」
と添える。
雨の日のお会計後に、
「お足元にお気をつけてお帰りください」
と伝える。
ご高齢のお客様に、
「ごゆっくりで大丈夫ですよ」
とお声がけする。
どれも数秒でできることです。
けれども、こうした言葉には、
「あなたのことを見ています」
「あなたを気にかけています」
「安心して過ごしていただきたいと思っています」
という感謝や歓迎の気持ちが表れます。
接客で大切なのは、決められた言葉を機械的に伝えることではありません。
目の前のお客様が、今どのような状態にあるのかを見て、その方に必要な言葉を選ぶことです。
「何を言うか」より先に、「なぜ言うか」を考える
接客研修では、よく使われる言葉や、正しい立ち居振る舞いを学びます。
もちろん、基本となる型を身につけることは大切です。
しかし、言葉や動作だけを覚えても、状況が変わると対応できなくなることがあります。
必要なのは、
「なぜ、この言葉をかけるのか」
を理解することです。
たとえば、雨の日に「お足元にお気をつけください」と伝える目的は、決まり文句を言うことではありません。
お客様が転ばず、安全にお帰りになれるように気遣うからです。
その目的を理解していれば、お客様が大きなお荷物を持っている場合には、
「お荷物をお持ちしましょうか」
と、言葉や行動を変えることができます。
型を理解したうえで、目の前のお客様に合わせて変えていく。
それが、臨機応変な接客だと思うのです。
お客様に選ばれる人が持っている三つの心構え
お客様に選ばれる人は、特別な才能を持っているわけではありません。
次の三つを、日々丁寧に続けていると感じます。
1.目の前のお客様に関心を寄せる
接客は、お客様をよく見ることから始まります。
視線はどこに向いているか。
何かを探していないか。
困った表情をしていないか。
急いでいるのか、ゆっくり選びたいのか。
関心を寄せるからこそ、その方に必要な対応が見えてきます。
2.お客様の不安や不満を先に取り除く
喜んでいただこうとする前に、まず安心していただくことが大切です。
待ち時間が生じるなら、目安を伝える。
わかりにくいことがあれば、先に説明する。
失敗や不手際があれば、言い訳をせずに謝罪する。
不安や不満が残ったままでは、プラスアルファのサービスをしても、心から喜んでいただくことはできません。
3.気持ちを、言葉や行動で表す
心の中で思っているだけでは、お客様には伝わりません。
「ありがたい」
「お待たせして申し訳ない」
「安全に帰っていただきたい」
そう思ったら、適切な言葉や行動で表します。
ホスピタリティとは、相手を思う気持ちを、相手に伝わる形にすることです。
リピーターになるきっかけは、ほんの些細な気遣い
お客様がファンになるきっかけは、想像以上に小さなものです。
「私のことを覚えていてくれた」
「困っていることに気づいてくれた」
「忙しいのに、丁寧に対応してくれた」
「最後に、温かい言葉をかけてくれた」
そのような体験によって、お客様の気持ちは温かくなり、安心し、時には深く感動するのです。
そして、
「〇〇さんがいるから、ここで買いたい」
「〇〇さんに会うことも、来店する楽しみの一つ」
「ほかにもお店はあるけれど、やはりここがいい」
という気持ちが育っていくのだと思います。
価格や商品の機能だけで比べられれば、より安い商品や、新しい商品が登場したときに、
お客様が離れてしまう可能性があります。
けれども、人との間に信頼や愛着が育っていれば、簡単には比較されない価値になります。
接客は、商品やサービスの価値を、お客様の心に届ける仕事です。
同時に、商品だけでは生み出せない安心や喜びを加えることができる、非常に大きな価値でもあります。
今日からできる、たった一つのこと
まずは今日、目の前のお客様に対して、
「この方が今、少しでも安心するために、私にできることは何だろう」
と考えてみてください。
特別な答えでなくて構いません。
- 目を見て挨拶をする。
- 明るく返事をする。
- 迷っている方に声をかける。
- 相手の状況に合ったひと言を添える。
その小さな行動が、お客様にとっては、忘れられない体験になることがあります。
接客の一つ一つは、とてもシンプルです。
けれども、シンプルな気遣いを意識し、続けることで、少しずつ自分の心にも余裕が生まれます。
心に余裕ができると、周囲が見えるようになります。
周囲が見えると、お客様の小さな変化に気づけるようになります。
気づけるようになると、相手に合わせた対応ができるようになります。
その積み重ねが、お客様から選ばれる人をつくります。
接客とは、幸せをつくること。
大がかりなサービスではなく、目の前の方を思う、ほんのわずかな行動から始まるのだと思います。
接客を個人の努力だけにしないために
一部のスタッフが素晴らしい接客をしていても、その人だけの経験や感覚に頼っていると、
会社全体のサービスにはなりません。
大切なのは、
- 自社のお客様が、どこで不安や不満を感じているのか
- どのような接客がお客様の安心につながるのか
- なぜその対応が必要なのか
- スタッフ全員が再現するために、何を共通言語にするのか
を整理し、現場で実践できる形にすることです。
株式会社キャリア・ジョセフィーヌでは、接客マナーを教えるだけではなく、
お客様の心理や現場の状況をもとに、選ばれる会社になるための接客の仕組みづくりをお手伝いしています。
「接客に力を入れているのに、リピーターにつながらない」
「スタッフによって、接客の質に差がある」
「自社らしいホスピタリティを、組織全体に浸透させたい」
そのような課題をお持ちの企業様には、ホスピタリティ経営コンサルティングをご提供しています。
接客を、スタッフ個人のセンスや努力だけに任せず、会社の価値として育てていきませんか。

