お客様に選ばれる会社が、感動より先に届けているもの

私は、日本航空で14年間、国際線の客室乗務員としてお客様をお迎えして参りました。
航空会社にとって、どれほど素晴らしいサービスよりも優先されるものがあります。

それが、「交通機関としての安全」です。

何を差し置いても、安全が第一。人様の命より優先されるべきものはありません。
その上に定時運航があり、さらにその上にサービスやおもてなしがあります。

そのため日本航空では、客室乗務員だけではなく、パイロット、整備、空港スタッフなど、
職種や職位、部門を越えて、全社を挙げて安全を守るためのさまざまな取り組みが行われていました。

この経験から、私は今でも強く感じていることがあります。

お客様に感動していただけるサービスを提供する前に、まずはお客様との約束事を守ること。

その土台をきちんと整えることが、とても大切なのです。

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お客様の心を動かす前に、まず整えたいものとは?

お客様に感動していただくことや、期待を超えるサービスを提供することは、とても大切です。
ただ、その価値をきちんと受け取っていただくためには、まず整えておきたい土台があります。

それが、お客様との『約束事』をきちんと守り、安心していただくことだと思うのです。

私たちは、商品やサービスを通して、お客様に価値を提供し、その対価としてお金をいただいています。

けれど、その前提には、お客様がその商品やサービスに対して当然期待している「約束」があります。

たとえば飲食店であれば、「安心して、おいしい料理を楽しんでいただくこと」
運送会社であれば、「預かった品物を傷つけることなく、約束した期日までに届けること」
そして当然、航空会社であれば、「目的地まで、安全に、できる限り時間通りにお連れすること」です。

まずは、こうしたお客様との「約束事」にきちんと応えること。

私は、これが顧客満足(CS)の大切な基盤だと考えています。

その基盤を整えた上で、

「思っていた以上に心地よかった」
「そこまで気づいてくれたんだ!」
「またここを利用したい」

と思っていただける顧客体験価値(CX)へとつなげていく。

つまり、いきなり感動やサプライズといったプラスαを考えるのではなく、
まずは、お客様が安心してサービスを受けられる状態をつくることが大切なのです。

お客様の不安や不快は、小さなところから生まれる

たとえば、レストラン。

大前提となるのは、「安心して、おいしい料理を楽しんでいただくこと」です。


ところが、スタッフを呼んでもなかなか来ない。メニューが分かりにくい。
注文のタブレットの操作方法が分からない。料理がなかなか出てこない。
質問をしてもスタッフが答えられない。

こうしたことが少しずつ積み重なると、お客様の中には不安や不満が生まれてきます。

一つひとつは、小さなことかもしれません。
けれど、それが重なることで、「このお店、大丈夫かな」
「ちゃんと対応してもらえるのかな」「私は大切にされていないのかもしれない」
という印象につながってしまうのです。

そのような状態で、
「どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ」
と満面の笑顔で声をかけられたとしても、お客様の心の中では、

「その前に、やることがあるでしょう……」となってしまうかもしれません。

せっかくのプラスαのサービスも、その前提となる安心がなければ、十分に届かないのです。

「安心」は、特別なサービスから生まれるわけではない

では、お客様に安心していただくために、何をすればよいのでしょうか。
実は、決して難しいことではありません。

お客様の小さな変化に気づく

お客様がスタッフを呼ぼうとしていないか。
何かお困りのご様子はないか。
タブレットの操作で戸惑っていないか。

こうした小さな動きに目を配ることです。

こちらから一声かけるだけで、
「気づいてくれた」「ちゃんと見てくれている」という安心につながります。

待たせるときこそ、一言を添える

どうしてもお待たせしてしまうこともあります。

そんなときも、何も言わずに待っていただくのと、
「こういった理由で、ただいま少々お時間をいただいております。申し訳ございません」
と一言お伝えするのとでは、お客様の感じ方は大きく変わります。

時間そのものを短くできなくても、お客様の不安を和らげることはできるのです。

お客様から聞かれそうなことを準備しておく

商品について。
サービスについて。
施設について。

お客様がどのようなことを質問されるのかをあらかじめ想像し、答えられるように準備しておく。

この基本こそが、顧客満足(CS)の基盤となります。
さらに、この基盤があるからこそ、おもてなしが効くのです。

CSという土台の上に、CXという体験が積み重なっていく

私は、顧客満足(CS)と顧客体験(CX)の関係も、家づくりに似ていると思っています。

どれだけ美しい家を建てようとしても、土台がしっかりしていなければ、
その上に立つ柱はぐらついてしまいます。

ホスピタリティも同じです。

まずは、「お客様との約束を、きちんと守る」という基本を整えること。

その積み重ねによって、
「安心して利用できた」
「きちんと対応してもらえた」
「期待していた通りだった」

という顧客満足につながっていきます。

その上で、

「思っていた以上に心地よかった」
「そこまで気づいてくれたんだ」
「またこの人にお願いしたい」

と感じていただける体験が重なっていく。

そうして、お客様の心に残る感動や、
「次もここを選びたい」という気持ちにつながっていくのではないでしょうか。

一流のホテルも、まず大切にしているのは「安心」

以前、一流のおもてなしで知られるザ・リッツ・カールトンの方のお話を伺う機会がありました。
その中で、とても印象に残っているお話があります。

お客様の想像を超えるサービスを提供するためにも、まず大切なのは、
「お客様に安心して、ゆっくりお休みいただけること」

だというお話でした。

華やかなサプライズや、記憶に残るサービスだけがおもてなしではありません。

一流と言われるホテルであっても、まず大切にしているのは、宿泊施設として当然守るべき基本です。
安心して過ごせること。清潔であること。安全であること。ゆっくり休めること。

こうした基本があってこそ、その上のおもてなしが生きてくるのです。

感動をつくる前に、安心をつくる

「お客様を感動させたい」
「期待を超えるサービスを提供したい」
そう考えることは、とても素晴らしいことです。

でも、その前に一度、自社のサービスを見直してみませんか。

お客様を不安にさせているところはないでしょうか。
分かりにくいところはないでしょうか。
お待たせしたままになっているところはないでしょうか。
スタッフによって対応に差が出ていないでしょうか。

どれほど心のこもった言葉をかけても、どれほど素晴らしいおもてなしを考えても、
その前にお客様が不安や不快を感じていたら、その価値は十分には届きません。

だからこそ、まず大切なのは、お客様との約束事にきちんと応えること。

安心して利用できる。
思っていた通りの期待していたサービスがきちんと受けられる。
困ったときには、きちんと対応してもらえる。

そうした一つひとつを積み重ね、まずは顧客満足(CS)を実現することです。

そして、その土台が整って初めて、
「そこまで気づいてくれたんだ」
「思っていた以上に心地よかった」
「またここを利用したい」

という、心を動かす顧客体験(CX)が生まれていきます。

つまり、

まず、お客様を不安や不快にさせない。
「マイナス」をなくし、安心していただく。
その上に、感動につながるサービスやおもてなしを重ねていく。

この順番が大切なのだと思います。

感動を生み出すことばかりに目を向けるのではなく、まずは目の前のお客様に、

「ここなら安心できる」
「ここなら任せられる」

と安心していただくこと。

感動のサービスは、顧客満足という確かな土台があってこそ始まります。

私は、これこそが、お客様に長く選ばれ続ける会社をつくる、ホスピタリティ経営の基本だと考えています。

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