「前はやってくれたのに!」を生まない例外対応の考え方
お客様から、
「前はやってくれたのに!」
「他のスタッフならやってくれたのに!」
「あなたは融通が利かないのね・・・・」と言われて、対応に困ったことはありませんか?
私自身、長く接客の現場に立つ中で、何度も耳にしてきた言葉です。
例外対応そのものが問題なのではありません。
「例外を例外として伝えないこと」が、次のクレームの火種になるのです。
また、企業研修の際、受講者の方からも、
- 前回の担当者が対応してしまったので、今回は断れなくなってしまった
- スタッフによって対応が違うと言われ、お客様から激怒された
- ルールではできないことなのに、「前はやってくれた」と言われると、どう返せばいいかわからない
というご相談をよくいただきます。
このような場面に遭遇すると、スタッフ側は困りますよね。
本当に以前は対応したのかもしれない。
今日だけできない事情があるのかもしれない。
あるいは、お客様が要望を通したくて、「前はやってくれた」とおっしゃっていた、
なんてこともあったと聞きます。
けれど、私はこの言葉を聞くたびに思うのです。
これは、本当に“そのスタッフの接客力”だけの問題なのでしょうか。
実は「前はやってくれたのに」という言葉の中には、
カスタマーハラスメント対策を考えるうえでも、とても重要な問題が隠れています。
それは、“一人のスタッフの親切”を、会社としてどう扱うか。という問題です。
「今回だけ」が、お客様にとっては「いつものサービス」になる
例えば、こんなケースがありました。
ある店舗では、本来、受付は午後6時まで。
ところがある日、6時を少し過ぎて来店されたお客さまがいました。
店内は比較的空いている。
スタッフにも少し余裕がある。
そこで担当者は、「せっかくお越しいただいたのだから」と考え、受付をしました。
お客様は喜んで帰られました。
スタッフも、「喜んでいただけてよかった」と思うでしょう。
ここまでは、一見すると、とても良い接客です。
ところが数週間後。
同じお客様が、再び6時を過ぎて来店しました。
今度は店内が混雑していて、受付できません。
別のスタッフが、
「申し訳ございません。本日の受付は終了しております」
とお伝えすると、
「え? 前はやってくれたわよ」
と言われてしまう。
さらに、「前の人は親切だったのに」
「あなたは融通が利かないのね」となってしまう。
ここで考えたいこと
この場合、
- お客様が悪い
- 今回お断りしたスタッフが悪い
- 前回対応したスタッフが悪い
と、誰か一人に原因を求めるのは少し違うように思います。
むしろ問題は、
前回の“例外対応”が、例外として伝わっていなかったこと
にあります。
会社側にとっては「今回だけ」。
でも、お客様にとっては、一度経験したサービスです。
そして人は、一度してもらったことを、
「この会社では、してもらえること」
として記憶することがあります。
つまり、
会社側の“例外”が、お客さま側では“基準”に変わってしまう。
ここに、すれ違いが生まれてしまうのです。
“親切”そのものが悪いわけではない
私は、例外対応をしてはいけないと言いたいわけではありません。
むしろ接客には、マニュアルだけでは対応できない場面がたくさんあります。
目の前のお客さまの状況を見て、
「今日はこうして差し上げよう」と考える。
それもホスピタリティの一つです。
大切なのは「例外」であることを伝えること
問題は、
例外対応をしたことではなく、その意味を伝えていないこと。
たとえば、
「本日は比較的空いておりますので、今回は特別に対応させていただきますね」
あるいは、
「通常は午後6時までの受付となっておりますが、本日は対応可能ですので承ります」
と、一言添える。
この一言があるだけで、
- いつでも受けられるサービス
- 通常対応
- 今回だけの特別対応
の違いが、ぐっと伝わりやすくなります。
ここまで含めて、私は例外対応の接客だと思っています。
「前はやってくれたのに」は、お客様からすれば自然な疑問でもある
カスハラ対策を考えるとき、気をつけたいことがあります。
それは、お客様からの不満を、すぐに「カスハラ」と決めつけないことです。
「では、どこからがカスハラになるの?」と思われた方は、
「これってカスハラ?」クレームとの違いと判断ポイントでも詳しくご紹介しています。
2026年10月1日から、事業主にはカスタマーハラスメント防止措置が義務づけられますが、
厚生労働省も、顧客等からの苦情のすべてがカスハラに該当するわけではないと明記しています。
「前はやってくれたのに・・・」
という言葉だけであれば、それはお客様にとって自然な確認かもしれません。
前回できたものが、今回はできない。
説明がなければ、「どうして?」と思うのは当然です。
まず確認したいこと
お客さまがこの言葉を発したときは、まず、
- 本当に以前は対応していたのか
- 以前は特例だったのか
- 現在はルールが変わったのか
- 担当者によって対応が違っていたのか
を確認する必要があります。
大切なのは、
お客様が間違っていると考えることではなく、“なぜそう思われたのか”を確認すること。
この視点が、接客には欠かせません。
「前回できた」が“要求を通す武器”になったときは話が変わる
一方で、同じ「前はやってくれたのに」という言葉でも、その後の展開によっては意味が変わります。
たとえば、
- 「前はやったんだから、今日もやってよ」
- 「できないなら責任者を呼べ」
- 「前のスタッフの名前を言え」
- 「こんな店、SNSに書いてやる」
- 「お前は接客に向いていない」
と、要求や言動がエスカレートしていく場合です。
ここまでくると、
“お客様の疑問への対応”と、“行き過ぎた要求への対応”を分けて考える必要があります。
厚生労働省は、カスタマーハラスメントについて、
顧客等の言動のうち、業務の性質などに照らして社会通念上許容される範囲を超え、
それによって労働者の就業環境が害されるものとしています。
判断のポイント
大切なのは、お客様がお怒りなのかどうかだけではありません。
見るべきなのは、
- 何を求めているのか
- その要求は妥当なのか
- 言動は許容される範囲なのか
- スタッフの就業環境が害されていないか
- 一人で対応を続けるべき状況なのか
です。
「お客様に嫌われたくない」が、例外対応を増やしていないでしょうか
接客に携わる人には、
「できるだけ喜んでいただきたい」
「せっかく来ていただいたのだから、何とかして差し上げたい」
という気持ちがあります。
とても素晴らしいことですよね。
私自身も、長く接客の現場にいたからこそ、その気持ちはよく分かります。
だからこそ、「今回だけなら」「私が少し頑張れば」「断って嫌な思いをされるくらいなら」
と、つい応じてしまう。
けれど私は、接客の現場では、
“その場のお客様に好かれること”と、“良い接客をすること”は、必ずしも同じではない
と思っています。
その場の親切が生む、次の課題
その場では喜んでいただけても、
- 次に対応するスタッフが困る
- ほかのお客様には同じことができない
- 「強く言えば対応してもらえる」という経験をつくってしまう
- スタッフごとの判断がバラバラになる
- 会社の接客基準そのものが揺らぐ
ということが起こり得ます。
これは、お客様にとっても決して良いことではありません。
サービスに一貫性がなくなれば、
「前回はできたのに」「人によって違う」という新たな不満を生むからです。
「できません」と言うことは、接客を放棄することではない
日本の接客では、「できません」と言うことに、どこか罪悪感を持つ方が少なくありません。
でも私は、断ること自体が問題なのではなく、どう断るかが接客なのだと思うのです。
私自身、接客の仕事を始めた頃から、
“できないで終わらせず、代わりに何ができるかを考える”ことを大切にしてきました。
伝え方の一例
たとえば、
「あいにく○○については承ることができません。ただ、○○でしたら対応できますが、いかがでしょうか」
とご提案する。
できないことは明確にする。
そのうえで、
“では何ができるか”を考える。
ここには十分、ホスピタリティがあります。
良い接客は「何でもYES」ではない
何でもYESと言うことが、一流の接客ではありません。
できることと、できないことを見極め、できないことも相手を尊重しながら伝える。
それもまた、接客のプロに必要な力ではないでしょうか。
本当に怖いのは、「誰が対応するか」で答えが変わる会社
私は、「前はやってくれたのに」という言葉を耳にしたとき、
スタッフ本人の接客力だけを見るのではなく、会社側にも問いかけてほしいと思っています。
御社では、誰が対応しても同じ判断ができるでしょうか。
こんな状態になっていませんか?
- AさんならOK、BさんならNG
- ベテランなら特別対応、新人はルール通り
- 店長がいる日はできるけれど、いない日はできない
- 例外対応をしたことが他のスタッフに共有されていない
- 断る基準がスタッフ個人の感覚に任されている
もし、このような状態になっているのであれば、
現場スタッフに、「うまく断ってください」とお願いするだけでは解決しません。
必要なのは、会社としての基準です。
会社として決めておきたい5つのこと
少なくとも、次のことは整理しておきたいところです。
- どこまでは現場判断で対応してよいのか
- どこからは上司確認が必要なのか
- 例外対応を認めるのはどんな場合か
- 例外対応をしたとき、お客さまにどう伝えるのか
- どのようにスタッフ間で共有するのか
2026年10月1日からのカスハラ対策義務化でも、現場対応を一人に任せるのではなく、
事業主として必要な措置を講じることが求められています。
私は、この「会社として判断できる状態」をつくることこそ、実効性のあるカスハラ対策だと考えています。
“線を引く”ことは、お客様を遠ざけることではありません
カスハラ対策という言葉を聞くと、
「お客様に厳しくすること」「断ること」「毅然とした態度を取ること」
ばかりが注目されることがあります。
けれど、私は少し違うと思っています。
本当に必要なのは、
お客様と社員、その両方を守れる境界線をつくること。
カスタマーハラスメント対策と質の高い顧客対応は、両立できる
たとえば、
- 正当なご意見には、誠実に耳を傾ける
- こちらに不備があれば、きちんと謝罪する
- できることがあれば、可能な限りご提案する
- できないことは、丁寧にできないと伝える
- 行き過ぎた要求には、会社として対応する
- スタッフ一人に背負わせない
この両方があって初めて、接客品質とカスハラ対策は両立するのだと思います。
「前はやってくれたのに」と言われたら、会社を見直すチャンスかもしれません
「前はやってくれたのに・・・!」
この言葉を聞くと、つい、「どう返そう」と考えてしまいます。
けれど、少し視点を変えてみると、それは会社にとって、とても大切なサインなのかもしれません。
一度、こんなことを確認してみてください
- なぜ、前回と今回の対応が違ったのか
- 例外対応は、きちんと例外として伝わっていたのか
- スタッフ間で判断基準は共有されているのか
- 現場の善意に頼りすぎていないか
- お客様への説明方法は統一されているか
その一つひとつを見直すことが、お客様との不要なトラブルを減らし、
同時に、スタッフが安心して働ける環境をつくることにつながります。
私は、お客様を大切にすることと、社員を守ることは、相反するものではないと思っています。
むしろ、
お客様を大切にしたいからこそ、会社としての線引きを持つ。
そして、その線引きを、相手への敬意を失わずに伝えられる人を育てる。
それが、これからの時代に求められるホスピタリティなのではないでしょうか。
法人企業さまへ|接客品質を落とさないカスハラ対策を
株式会社キャリア・ジョセフィーヌでは、「お客様を大切にしながら、社員も守る」ことを大切にし、
法人企業さまの現場に合わせたカスハラ対策をご支援しています。
たとえば、
- クレームとカスハラの見極め
- 現場で迷わない対応基準づくり
- 例外対応・エスカレーションルールの整備
- 接客品質を落とさない断り方
- 管理職・従業員向けカスハラ対応研修
- 対応マニュアル・フローの整備
など、現場の実情に合わせて一緒に整えていきます。
「うちの場合は、どこから整えればいい?」
「スタッフによって対応が違う」
「例外対応の基準が曖昧」
「断るとクレームになりそうで不安」
そんな状態が一つでもあれば、見直しのタイミングかもしれません。
御社の現場に合わせて、どこから整えるべきか一緒に整理いたします。
まずは、自社の接客基準を見直すところから始めてみませんか。
東京都では、カスハラ対策に取り組む企業を対象とした支援制度もあります。
制度の内容や対象となる取り組みについて、こちらの記事で詳しくご紹介しています。
▶︎東京都のカスハラ対策・40万円の奨励金についてはこちら

